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サイモン・シネックとの出会い

著書『Whyから始めよ』は、全米で100万部を超えるベストセラーとして、日本で2012年1月に出版された。この本と私の出会いはそれから7年がすぎた2019年11月である。

あるとき友人から

『面白い本がある。この本の中で言っているWhyを見つけたい』

とリクエストをもらった。リクエストをもらったはいいのだが、そもそも

『Whyとは何なのだろうか?』

それすらわかならない。そこで、まず友人に勧められた本『Whyから始めよ』をAmazonで買ってみた。それが著者サイモン・シネックとの出会いである。

その本を開いてすぐ、1ページ目の冒頭にこんな言葉が書かれていた。

世の中には、「形式上のリーダー」と「本物のリーダー」がいる。
「形式上のリーダー」は、権力のある座に就いていたり、影響力をもっていたりする。
いっぽう、「本物のリーダー」は、私たちを奮い立たせる。
著書:『Whyから始めよ』より

この言葉を読んだ時、衝撃を受けた。これは、私が今までの人生経験の中でインスパイアされたリーダー像を的確に言い表していた言葉だったのだ。

そして、読み進めていくうちに、ふとサイモン・シネックのTEDでのスピーチを思い出した。その時、本との出会いが著者との初めての出会いではなかったことに気がついたのだ。しかし、その出会いがいつだったのか忘れてしまった。ただ、サイモン・シネックがモニタ越しに凛としてステージに立ち、軽やかに、シンプルに伝えたいメッセージを力強く、そして、分かりやすくプレゼンテーションをしていたことだけは覚えていた。

時を経て、TEDでサイモン・シネックのスピーチを探し当て、その再生数に度肝を抜かれた。それは、2020年7月現在、5000万回以上再生されていたのだ。

サイモン・シネックが初めてTEDの舞台に立ち、動画公開されたのは2009年9月のことである。それから10年経ったとして、単純計算すると1年間で約500万回再生されたことになる。

そのTEDスピーチのタイトルは “優れたリーダーはどうやって行動を促すか“ である。

ぜひ、まだ見たことがない方はこちらか見てください。

今ではその動画は圧倒的な再生数だけでなく、48ヵ国語に翻訳されている。これは世界中の方の共感を集めていることの証明である。

なぜこんなにも人を惹きつけるのか

そんな時、突然私の脳裏に素朴な疑問が浮かび上がってきた。それはなぜこのサイモン・シネックのスピーチが

“ここまで文化の垣根を越えた人々に広がっているのか?”

そして、

“人々の心を捉えているのだろう?”

こんな疑問である。それとも、私のように尊敬するリーダ像を的確に表現していたからなのか、それとも他に理由があるのだろうか。その理由を客観的につかんでみたい。そんな思いがふつふつと湧き上がってきた。

それから物思いに耽りながら、どうやったら客観的にその理由を掴めるのだろうか。そんな思いを持ちながら日々を過ごしていたある日、この理由を客観的に調べるための方法を思いついた。

それは、サイモン・シネックの著者『Whyから始めよ』の読者のコメントとTEDスピーチ『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』の視聴者のレビューを拾い上げて文字にして分析する手法、テキストマイニングを使うことを思いついたのだ。テキストマイニングとは、文字系列を対象としたデータマイニングのことである。テキストマイニングは、よく商品の評価や顧客サービスの問題点を把握することに使われている。

ちなみにデータマイニングとは、統計学、パターン認識、人工知能等のデータ解析の技法を大量のデータに網羅的に適用することで取り出す技術のことである。またテキストマイニングとは、文字列を対象としたデータマイニングのことである。

※Wikipedia参照: データマイニングテキストマイニング

ここまではよかったのだが、ただ私には、テキストマイニングを行う環境とシステムを作り出すだけの技術はない。そこで、googleさんに頼ってみた。そうしたらものの数分でとても便利なツールを発見した。その名前は『AIテキストマイニング』である。株式会社User Localが提供している。使ってみるとすごく使いやすく、無料でここまでの機能が提供されていたことに驚いていた。

User Local AIテキストマイニング

著書『Whyから始めよ』の読者レビューをテキストマイニングしてみた

テキストマイニングするために、まず著者『Whyから始めよ』のAmazonのレビューで書かれていた95件をテキストとして取り出した。その文字数を数えてみると約10,000文字である。そのデータをもとにテキストマイニングを行なってみた。

その結果はいくつかあるがわかりやすい代表的な2つの図をピックアップしてみた。1つ目の図は、ワードクラウドと呼ばれるものでスコアの高い単語が選ばれ、その値の高いものほど大きく表される。この図では、青色が名詞、赤色が動詞、緑色が形容詞で表されている。2つ目の図は、共起キーワードと呼ばれるもので、文字に起こしたレビューの中で一緒に出てくる単語を線で結んだネットワーク図として表される。この図では、出現数が多い言葉ほど大きく、また、共起の強いほど太い線で描画される。

これらの算出の根拠は、以下のページを参照してほしい。
(※Use Local AIテキストマイニング よくご質問いただく項目と回答

 

図1 『Whyから始めよ』読者レビュー ワードクラウド

図1 『Whyから始めよ』読者レビュー ワードクラウド

 

この図の中で大きなものからを見ていくと、名詞ではWhy、次にted、サイモン・シネックと続き、さらに講演、理念、インスパイア、リーダーシップ、リーダー、ゴールデンサークル、アップル、ビジネスと続く。動詞では、優れる、問う、形容詞では、分かりやすいという言葉が読者のレビューで使われていたことがわかる。

 

図2 『Whyから始めよ』読者レビュー 共起キーワード

図2 『Whyから始めよ』読者レビュー 共起キーワード

 

続いて、共起キーワードを見ていこう。一番大きいのは“why”、続いて“ted”である。また、特徴的なつながりとして“イノベーション”、“起こす”、この2つの言葉の関連性が強いことがわかる。”ted”に注目すると“プレゼン”と“良い”の言葉の繋がり、そして、“良い”の大きさから、サイモン・シネックのプレゼンの評価の高さが伺える。そして、“ゴールデンサークル”に着目すると、“アップル”、“事例”の言葉がつながっている。これを言い換えるとアップルを事例としてゴールデンサークルで説明したことがが読者に受け入れらたポイントになっていると推測できる。

これらの結果から、読者は”Why(理念)”の重要性の高さを認識していることは間違い無いだろう。また、読者は”ted”での“サイモン・シネック”の“講演”の“良さ”から“インスパイア”された人が少なく無いことが推測される。さらに“イノベーション”を“起こし”た“事例”として“アップル”を取り上げ、“ゴールデンサークル”というシンプルな考え方で、分かりやすく説明されていることに共感している人が多いのだという考えに至った。

TEDスピーチ『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』の視聴者コメントをテキストマイニングしてみた

続いて、TEDのスピーチ『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』の視聴者コメントをテキストマイニングするための準備をしていこう。TEDスピーチに書かれたコメント2098件をテキストで取り出した。その文字数は約28,000文字である。そのデータをもとにテキストマイニングを行なってみた。

それぞれの図は以下になる。

 

図3 『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』 視聴者コメント ワードクラウド

 

この図からスコアの高いもの、文字が大きく表されている文字を探していく。大きなものから順番に見ていくと、形容詞のgood(良い)、great(素晴らしい)に続き、動詞のbelieve(信じる)、think(考える)、buy(買う)、sell(売る)となる。さらに、名詞では、people(人々)、apple(アップル)、company(会社)と続いていく。

これらの言葉から考えると、視聴者は形容詞でのgood(良い)、great(素晴らしい)という言葉が多用されていることからもわかるようにサイモン・シネックの講演を高く評価していることは間違いないだろう。これは著書のテキストマイニングの結果と共通している。

次に大きな言葉を考えていこう。動詞のbelieve(信じる)、think(考え)、buy(買う)、sell(売る)、そして、名詞のpeople(人々)、apple(アップル)、company(会社)である。これらの言葉から考えてみると、人々が何を信じ(believe)、考え(think)、買い(buy)、会社(company)はどう売ること(sell)が良いのかをこの講演を聴くことでインスパイアされたのではないかと推測される。また、事例としてのapple(アップル)にも引きつけられているのだろう。

 

図4 『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』 視聴者コメント 共起キーワード

 

次に共起キーワードを見てみよう。一番大きなものは、名詞のpeople(人々)、apple(アップル)、company(会社)と続く。特徴的なことは、people(人々)の周りに動詞のbelieve(信じる)、buy(買う)、need(必要とする)が一つの塊として、さらに、service(サービス)、sell(売る)が同時に出現していることがわかる。また、apple(アップル)、company(会社)、example(事例)が大きな存在感を示している。

この結果をみて気づいたことは、人々が何を信じ、何を必要とし、何を買うのか、そして、企業は、サービスや製品をどのように伝えるのが大事かを、アップルという会社の事例を交え、分かりやすくサイモン・シネックが伝えたことで、多くの人をこのTEDのスピーチに引きつけたのだろう。これらのことは誰もが大切だと何となくはわかっていたが、なぜ、それが大切なのかを言葉で説明することができなかった。それをTEDという開かれた場で伝えたことで人々の共感の連鎖が生まれていったのではないかという結論に至った。

TEDスピーチで、5000万回以上再生されている理由とは

これらの分析を通して、私が考えたTEDスピーチ『『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』が5000万回以上、再生されている理由には大きく3つある。

その1つ目の理由として、人々の購買心理をシンプルなモデルで捉えたことである。

『人々が何を信じ、何を必要とし、何を買うのか』

この言葉を著者の言葉で言い換えると

『人々はあなたのしていること(WAHT)を買うのではない、あなたがそれをしている理由(WHY)を買うのだから』

著書:『Whyから始めよ』より

この言葉をさらにゴールデンサークルというシンプルなモデルを使い、分かりやすく力強く伝えていたことが人の心を捉えたのではないかと考えている。

 

2つ目の理由として、“あなたがそれをしている理由(Why)”とは、万人が探し、悩み、求めているものであったことである。

あなたがそれをしている理由(Why)は、企業にもリーダーにもどんな人に必要なことであり、また、普遍的な要素であり、どんな人にも当てはまることである。ということは、文化も国も宗教も関係なく国境を超えて、万人が悩み、求めているものだったからだ。そして、さらに万人が悩んでいた、それが感覚的には大事だとわかっていても、誰も今まで説明できなかった。それをゴールデンサークルというシンプルな考え方で、その重要性を明らかにしたことが2つ目の理由だと考える。

 

3つ目の理由として、誰もが知るアップルの事例と共に発信力が強くなっていたTEDという時流に乗ったことである。

これらの考え方をサイモン・シネックが、このゴールデンサークルとしてTEDで発表した2009年当時、2007年9月に初代iPhoneを発表し、世界中のイノベーションの先駆者としてアップルがひた走り始めていた。また、時を同じくしてTEDが今まで有料会員しか見ることができなかった講演を2006年から無料で動画配信をするようになった。その絶妙なタイミングの3年後、世界が注目しているアップルを事例に、爆発的に広がり初めていたTEDというアイデアを発表する場で、圧倒的なプレゼン力で聴衆に分かりやすく伝えたことがきっかけとなったのではないかと考えている。これは個人的な意見だが、何よりサイモン・シネック、自らがなぜそれをしているのか(Why)を体現していたからではないかと思っている。

まとめ

サイモン・シネック「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」はなぜ5000万回以上再生されているのか、私が考える理由を簡単にまとめると3つである。

 

  • 人々の購買心理をシンプルなモデルで捉えたこと
  • “あなたがそれをしている理由(Why)”とは、万人が探し、悩み、求めていたものであったこと
  • 誰も知るアップルの事例と共に発信力が強くなっていたTEDという時流に乗ったこと

 

このことを分析しながら改めて、私がなぜMy Compass【人生の羅針盤】というサービスを届けたいと思っているのか、初心に戻って考えたいと思います。皆さんもぜひ、立ち止まって、

 

“なぜあなたが今の仕事をしているのか?”

 

また、仕事に限らずに

 

“なぜあなたがそれをしているのか?”

 

考えてみてください。